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The History of Persian Carpet

ペルシャ絨毯の歴史

絨毯の起源は、羊を放牧していた遊牧民の手織り絨毯に求められる。それ以前、彼らは動物の皮を敷物として、また、衣服として使っていた。やがて羊毛を刈り取り、フェルト状の敷物が作られる様になった。糸の紡ぎができるようになってから平織りが可能となり、徐々にパイル織りの絨毯も織られるようになった。最初は比較的小さい絨毯を織っていたが、町に定住するようになり大きな絨毯を織るようになった。今でも遊牧民は大きい絨毯をほとんど織らない。

現存する最も古い絨毯は探険家ロデンコによって発見された。現在、エルミタージュ美術館にある。外モンゴルから約80キロメートルのアルタイ山麓にあるパジリク古墳のサカ族の王墓から発掘されたこのパジリク絨毯(写真左)は、200×183cmで、1平方センチメートル当たり36ノットでアケメネス朝時代に織られ、馬に掛けられていたものである。ロデンコは、この絨毯がペルシャのホラーサーン地方で織られたものと推定している。

当初は絨毯を織るための下絵がなく、模様はほとんどが幾何学的で,口伝えに伝えられていた。ペルシャ絨毯に曲線模様が使われるようになったのは、都市に定着した人びとが絨毯を織るようになってからである。洗練された曲線模様が本格的に発達したのは15世紀頃からのことで、下絵が先に描かれ、それに従って織られた。ロンドンのビクトリア&アルバート美術館にあるアルデビル絨毯(1540年制作/1152×534cm/写真右)は、当時の技術の完成度を物語っている。王室や貴族の注文で織られる絨毯も増え、素材も羊毛だけでなく絹糸も使われるようになった。そして、ペルシャ絨毯はペルシャの最も高価な製品として他国の王室などへの贈り物として使われるようになっていった。日本には17世紀頃から祇園祭の鉾の懸装品として現在まで使われている。

サファヴィー朝期,王の命令により多くの都市で多数の工房が作られ、王室御用達の絨毯や、外国からの特別注文の絨毯が多く織られるようになった。ペルシャの手織り絨毯や工芸品は時代の影響を受け、サファヴィー朝期に最も栄えた。

外国への本格的輸出は19世紀半ばから始まり、カージャール朝のナーセロッディーン・シャーの時代にはヨーロッパに大量の絨毯が輸出されている。19世紀の近代資本主義・商業主義の台頭により、量産を重視する傾向が現れた。化学染料の普及により、伝統的草木染が少なくなり、外形だけが重んじられるようになっていった。20世紀後期にこの傾向を憂い、伝統的技法と模様の復活と発展を目指す工房が現れてきた。

パジリク絨毯の絨毯 B.C.5〜B.C.4C エルミタージュ美術館パジリク絨毯の絨毯
B.C.5〜B.C.4C エルミタージュ美術館
アルデビル絨毯 ビクトリア&アルバート美術館所蔵アルデビル絨毯
ビクトリア&アルバート美術館所蔵

Characteristices of Persian Carpets

ペルシャ絨毯の特質

1. 絨毯の素材

イランではパイル織りの敷物(絨毯)とパイルなしの敷物(ゲリームまたはキリム)が昔から織られているが、パイル織りのほうが圧倒的に多い。パイル織りの構成はたて糸、パイル糸、よこ糸からできている。

①たて糸
たて糸は絨毯に使われる糸の12~15%を占めている。たて糸の素材は綿、羊毛、絹で、地域や民族によって違い、遊牧民のほとんどは羊毛を使っている。遊牧民の人口は減少し、今ではイランの人口の約1%にあたる約70万人である。定住民の間でも羊毛をたて糸に使用している所があるものの、イランの手織り絨毯の数パーセントだけがたて糸に羊毛を用いているにすぎない。ペルシャ絨毯の約8割以上は、たて糸に綿を用いている。パイル糸が絹である絨毯には、たて糸も絹が用いられる。エスファハーン地域を中心とした密度の非常に高い絨毯にも絹糸がたて糸として使われている。

②パイル糸(結び糸)
パイル糸は、絨毯に使われる糸の70~75%を占めている。パイル糸としては羊毛と絹が使われている。一般的にパイル糸が羊毛の場合、ウール絨毯と言う。パイル糸が絹の場合、シルク絨毯と言う。通常シルクは12%、ウールは18%の水分を含んでいる。繊維に水分が含まれていると静電気を起こしにくく、汚れにくい。静電気を起こさない繊維は健康的である。

③よこ糸
よこ糸は絨毯に使われる糸の15~18%を占めている。よこ糸は一般に綿糸が使われている。シルク絨毯にも普通よこ糸は綿糸を使うが、特別な場合には絹を使うことがある。羊毛をよこ糸として使うことは非常に珍しい。

2. 絨毯の構造

絨毯の織り方は次のとおりである。まず最初に,たて糸とよこ糸を使って平織を織り,そのベースの上に図のように2本のたて糸にパイル糸をからませてデザインにしたがって一列にパイル織を行い、次にたて糸であやを取り、よこ糸を通し、おさ打ちをする。通常,一列のパイルに対して2本のよこ糸を使う。1本目は太い糸で、2本目は細い糸を通す。地域により、よこ糸を2本以上通す所や、1本だけ通す所があるが、9割以上はよこ糸を2本使う。パイルのからませ方も地域により違う。大きく分けて2種類のからませ方がある。

①を使う地域は左右対称的に結び,釣針を使わない地域は非対称的にからませてパイルを結んでいく。一般的に左右対称的織りをトルコノットと言い、非対称的織りをペルシャノットと言う。

パイル絨毯の構造図

左右対称結び左右対称結び
左右非対称結び(結び:左開き)左右非対称結び(結び:左開き)
アルデビル絨毯 ビクトリア&アルバート美術館所蔵左右非対称結び(結び:右開き)

その他の織

その他の織

[スマック織]

シャーサヴァンの古いスマックは、敷物以外に、サドルバックや鞍がけ、塩袋や布団包みなど、強度が求められる日常品として、彼らの生活の一部でした。

男たちにより羊の最良部位の毛が刈られ、熟練した年配女性たちの手によって紡がれた羊毛は、織り手たち自らが染色を行いました。茜、藍、黄色にはザクロの皮、エスパラキ、ジャシール、茶色にはクルミの皮など、天然染料が使用されてきました。

これらは単に生活用品というものではなく、そこには霊的な強さや祈りを込めて、様々な象徴的な文様が織り込まれていました。

19世紀末から化学染料がイランに持ち込まれ、商人や職人たちはより多い収入を求め、天然染料の代用品として使用しました。そしてスマック織は大量生産の波の中で、芸術性を失っていきました。

イラン各地の民族の失われた伝統を復活させてきたミーリー工房は、アゼルバイジャン・プロジェクトを1998年より始動しました。古代から伝わる魔除け、自然崇拝、シャーマニズムなどとの密接な関係を想像される図像の研究から、失われていた文様を甦らせました。そして、天然染料と元来スマック織に使用される、強い撚りのかかった手紡ぎのコルディウールを用い、現代に求められる実用性をも再現しました。その結果、古来の織物が持っていた力強さと芸術性、実用性をもった、ミーリーのスマックが誕生したのです。

[モルヴァリッドバフ(真珠織)]

モルヴァリッドバフ(真珠織)とはイラン、アゼルバイジャン州のシャーサヴァン族特有の織物で、彼らが織る他の織物と比べ、とても重厚です。特徴として、点で模様を出すことによりパイル織絨毯のような曲線様線が表しやすいのが特徴です。真珠織はシャーサヴァンの中でもごく一部の部族しか織っていなかったというのが廃れていった要因なのかもしれません。

1988年からミーリー工房5代目のラズィ・ミーリーが失われていた各地方、民族の絨毯を復活させるというプロジェクトを始めました。博物館やミーリー工房の古いコレクションを研究しこの真珠織りの技法をかつて織られていたアゼルバイジャン・モガーン地方のシャーサヴァンにおいて2007年に復活させることに成功しました。この地方に古くからあったパイル織りの意匠との融合により古くて新しい希少な織りとして注目されています。

[ジャジム織]

ジャジムとは、経糸によって模様を描き出す最も原始的なシャーサヴァン族の織物です。巾の狭い手機で織るジャジムは、遊牧民が移動のときに布団や衣類を包むための布として用いられてきました。今ではジャジムを繋ぎ合わせてベッドカバーやクッションカバーなど現代の生活にあった使われ方が広がっています。

ミーリー工房のジャジムは座繰りの絹糸に草木染を施し、美しい色彩で繊細な紋様が織り出されています。そのジャジムで作られたクッションは気品があり、存在感は特別です。

ウールのジャジムは、繊細さのなかに野趣があり、ユニークです。クッションに仕立てられたジャジムは優しい草木染の色彩と肌触りで安らぎを与えてくれるでしょう。

[キリム]

キリムは一般的にパイル織り以外の敷物をさす言葉で部族特有の意匠や織、色、サイズなど、遊牧民の生活に密着した敷物です。経糸と横糸からなるつづれ織、刺繍のように模様糸が加わるチチム織りや経糸で模様を出すジャジム織など、織も多彩です。ミーリー工房のキリムはイラン南部の遊牧民カシュガイ族の織る綴れ織りです。綴れ織りの特徴は緯糸の色が変わるところにスリットが出来る所にあります。 床に敷く他、ソファーにかけたり、テーブルセンター、タペストリーなど、使い方はいろいろです。6000年前の土器からも見つかっている、鳥の頭や蟹などの水の女神様のシンボルや魔除けの模様など古代より受け継がれてきたモチーフが織り込まれています。

3. パイル糸の染色

イラン高原は、糸の染色に使われる植物が豊富である。よく使われている植物は 左記のとおりである。

19世紀の末からアニリンなどの化学染料がヨーロッパからイランに入り、草木染めが少なくなっていたが、この20年間ほど再び草木染めが復活してきている。

染料
赤/ピンク 茜(Runas)
紺/青 藍(Nil)
緑(濃) 藍とジャーシール(Jashir)(1)
緑(淡) 藍とザクロの皮
黄(マスタード色) ジャーシール
黄(淡い黄色) ザクロの皮
こげ茶/茶 クルミの皮
ベージュ クルミの皮

4. ペルシャ絨毯の機と道具

水平型織機

織り幅と密度に応じて地面に4本の杭を打ち、2辺に横木を固定し、たて糸を地面に平行して張る。この種の機は設置が簡単なので、遊牧民によって用いられている。

水平型織機
垂直型織機

竪(たて)に固定された織機にたて糸を張る。この型の織機は仕事がしやすく、大きな絨毯 も織れるので、イランでは遊牧民を除いてほとんどの地域で、このタイプの機が使われている。

垂直型織機

5. イラン手織り絨毯の存続の理由

①イラン高原の羊毛は絨毯にとって最適であること。イラン高原の羊の毛の繊維は,オーストラリアやニュージーランドなどの羊毛と比較して太く,踏んだり押しつけたりしたとき,回復力がはやいので絨毯の素材として適している。

②絨毯の原料に恵まれていること。羊毛と絹糸が大量に生産され,草木染めの原料になる植物が豊富である。

③ペルシャ絨毯の主な消費者はイラン人自身であること。嫁入り道具としてペルシャ絨毯を持たせる伝統的な習慣があり,また,それは土地や金と比較できるほどの財産として価値があり,投資の対象としても売買されている。

④ペルシャ絨毯は古くなるほど商品としての価値が上がること。それは使い込まれるほどますます色が落ち着きを増し,羊毛は柔らかくなり艶が出て味わい深くなる。ヨーロッパを中心にぺルシア絨毯のコレクターが大勢いて,アンティークの絨毯に人気が集まる。

⑤機械では織れない手織り絨毯の技法。

  • ⓐ機械ではパイル糸をたて糸に結ぶことができない。機械織りでは,パイル糸がⅤ型でたて糸に乗っているだけで,抜けないように絨毯の裏面に合成糊を塗布している。
  • ⓑ手織りの場合はパイル糸一列に対して,横糸が2本入り,じゅうぶんおさ打ちをすることができる。これによって緻密な絨毯が作られる。
  • ⓒ現代のジャガード(紋様を織り出す装置)の技術では,限定された色数の糸しか使えないが,手織りでは無制限に色糸が使える。
  • ⓓ手織りであるために,製作者の意向や微妙な表現が可能で,芸術的価値の高い絨毯を織ることができる。

〈注〉
(1)20~30センチメートルほどの丈の低いウイキョウに似た多年生植物で,黄色を出し,山地に生育する。ケルマーン地方が有名。

〈参考文献〉
イラン国民経済のダイナミズム 2000年 原隆一、岩崎葉子 編 (アジア経済研究所)
Edwards, A. C.[1953], The Persian Carpet,London:Duckworth.
Essie Sakhai[n. d.], Oriental Carpets,London:Parkway Editions Ltd.
ETFA[1998], Iranian Handmaid Carpet, Tehran.
Export Promotion of Iran[1996], International Conference on Persian Carpets, Tehran.
Sherkat-e Sahami-ye Farsh-e Iran[1998], Iran Rug, Tehran.
Tavernier, J. B. [1684], Collection of Travels through Turkey into Persia and the East-Indies, London:M.Pitt

How to Choose the Right Carpet

ペルシャ絨毯を選ぶ際の注意点

1.素材がたしかな天然素材であるかどうか確かめること。
パイル糸、経糸、緯糸、特に見えない緯糸が天然素材である事が大切です。19世紀までは手紡ぎの糸だけであったが現在は殆ど紡績した糸が使用されています。

2.染色のたしかなもの
19世紀までは全て天然染めであったが、現在では殆どが合成染料で染められています。染料メーカーが指定している公式で染めていない場合、色の定着率、堅牢度に問題が生じる事があるので信頼出来る専門家に相談する事が大切です。

3.織が確かであること
織の細かさ(パイルの密度)のみを目安にしない事です。産地により素材や密度が異なり、産地の伝統技術(伝統の織の構造)と素材が使用されているかが大切です。

4.紋様と色彩
図柄や色調は各人の好みで選ぶものですが、この紋様と色彩においてもオリジナリティーが大切です。その土地で古くから織られてきた紋様や色彩には風土と文化から生まれた、優れた工芸品としての価値があります。他の地で同じような図柄と色彩で織っても模倣にすぎず、その産地が長い歴史のなかで創造してきた紋様と色彩の重厚な絨毯とは言えません。

以上、4点に気を配り、オリジナリティーある手織り絨毯を選ばれる事をお薦めします。

Maintenance

メンテナンス

□ 数ヶ月に1回程度、風通しの良い所で裏にして虫干しするとよい。

□ 掃除は掃除機で普通にかけるだけで充分。

□ 長い間保管する時は、ナフタリンを入れ、巻いておく事。この時湿気のない所に保管する事。

□ 絨毯の敷く方向は年に一度程度変えるとよい。同じ方向だけに日光があたらない為と、同じ部分だけ損傷しない為。

□ クリーニングは靴で踏まない所に敷いた場合は10年~15年に一度で充分。ペルシャ絨毯専門のクリーニング店に頼むこと。小さいウールの絨毯は、家庭で洗う事が出来る。

[家庭で洗う場合の洗い方]

  • ・絨毯を平らにし、ホース又はシャワーで冷水をかける。
  • ・中性洗剤をかけ、タワシ又はブラシでパイルの寝ている方向にこすり、汚れ をおとす。
  • ・裏からと表から冷水をかけ、汚れた液が出なくなるまで濯ぐ。
  • ・水気をしっかり落とし、表面を干し、裏返して乾かす。天気が続く時を選び洗う事。完全乾燥させる事が大切。

□ 長い間使った絨毯は房(フリンジ)が摩耗したり、縁の糸(シラゼ)が切れたりする事がある。房の修理は新しい糸をつけない方が良い。もとの経糸の延長である房の残りで修理し、房がほつれてこない様にした方が良い。

□ ペルシャ絨毯は産地や素材によって多少違うが100~200年使える。ウールの絨毯の上に火を落としても合成繊維のように短時間で広がる事がないのですぐに消して焦げた部分を取り除けば、殆ど跡が残らない。

□ 湿気の多い家で重い机、ソファー、棚等を載せたままにしておくと、繊維が弱ったり、腐蝕することがあるので湿気には充分注意すること。万一穴があいた場合はペルシャ絨毯専門の修理店に相談すること。